ISBN:4043470053 文庫 小林 泰三 角川書店 ¥540
ボロボロで継ぎ接ぎで作られた古い家。姑との同居のため、一家三人はこの古い家に引っ越してきた。みんなで四人のはずなのに、もう一人いる感じがする。見知らぬお婆さんの影がよぎる。あらぬ方向から物音が聞える。食事ももう一人分、余計に必要になる。昔、この家は殺人のあった家だった。何者が…。不思議で奇妙な出来事が、普通の世界の狭間で生まれる。ホラー短編の名手、小林泰三の描く、謎と恐怖がぞーっと残る作品集。
邪悪な小林泰三とまで言われる程に、この人の書くホラーは禍々しい。某暗黒神話系統のホラーも書くし、不快な粘液でベトベトになるような気味の悪い話が多い。この短編集に入っているのは暗黒神話や化け物系統のホラーじゃないのだが、人間の暗黒面が現われている分、単に幽霊が出てきたりするものよりも恐ろしくておぞましい。一番怖いのは死んだ人間や異界の化け物じゃなくて、生きた人間なのである。
表題の「家に棲むもの」は、かつてそこに住んでいた者の怨念だとばかり思っていたら、意表をつく結末にしてやられた。「食性」は誰でも考え付く題材だが、落としどころはやはりホラー。「五人目の告白」は、ある事件を別々の視点で捉えながらも実は……。「肉」は典型的な小林作品。肉汁で汚されそうな気色悪さ。「森の中の少女」も隔離された世界で生きる少女が化け物のいる領域へ踏み込んで知る事実に驚かされる。「魔女の家」は精神的に捕らえられた悪夢の様。「お祖父ちゃん絵」も極めて猟奇的。
全部が全部、邪悪なホラーって感じだが、化け物じゃなくて人間が怖いのである。やはり、この小さな世界で最も邪悪なのは人類なのだ。
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