ISBN:4334925324 単行本 宮下 奈都 光文社 2007/01/20 ¥1,680
別に凝った素材が使われている訳でもなく、意表を衝くような展開が待っている訳でもない。実家が営む骨董品屋と、就職後に出向させられる高級靴店という特殊な環境は出てくるけれども、それ以外は目立った大道具が使われる訳でもなく、むしろ淡々とした日常を描いているにすぎない。にも関わらず、雰囲気だけで終わってしまう純文学系作家と異なり読み応えがあるのは、完成度が高い文章の成せる業だろう。最近出てきたばかりの作家だとは思えない、澱みの無い洗練された文章が心地良い。何作も仕上げてなお、この水準に到達しない作家なんて腐るほどいるのにな……。やはり、小説は努力じゃなくて才能だと思うのですよ。下手な人は何作仕上げても、下手なままだからね。これ、下手な芥川賞受賞作より上なんじゃないか?
物語は主人公の少女時代から社会人になるまで、スコーレ(学校)No.1から順にNo.4まで進んで行く。器量の良い妹にコンプレックスを抱く少女時代。親族に淡い恋心を抱く高校時代。妹と離れたくて遠くの大学を受け、やがて輸入商社へ就職したは良いものの、高級靴専門店へと出向させられて戸惑う新人の時代。最後は本社へ戻されて血の通わない数字と格闘する無味乾燥な日々の中で、欧州への買い付けへ行くことになり、水を得た魚のように仕事が乗ってくるお話。
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