ISBN:4163255907 単行本 藤原 伊織 文藝春秋 2007/01 ¥1,300
男たちの生き方に共感必至! CM制作を手がける麻生は昔の恋人の窮地を救うため突飛な手を考えた!(「水母」)。広告界と美術界を舞台にした力作3篇を収録!
藤原伊織の数少ない短編集。著書は全作品、極めてレベルは高いと思うが、やはり長編が圧巻である。分量が少ないから、短編だとやや物足りないかもしれない。本書には三篇収録。やはり、表題作となっている「ダナエ」が断然良い。何かと思ったら、ギリシア神話に出てくるペルセウスの母親だった。
ダナエはアルゴス王アクリシオスの娘だったが、孫に殺されると予言されたため、王によって青銅の塔に閉じ込められる。しかし、ユピテル(ゼウス)の子を身篭りペルセウスを産む。成長したペルセウスは円盤投げの最中に手元が狂い、祖父であるアクリシオスに当ててしまうのである。
この神話から描かれたレンブラントの作品「ダナエ」が、1985年に所蔵先のエルミタージュ美術館(サンクト・ペテルブルク)で硫酸がかけられるという事件が起こったのだが、その事件を模倣するかのように、ある日本画家の力作に薬品がかけられてしまうのである。画家は、犯人が神話になぞらえてアクリシオスに当たる人物を狙っているのではないかと考えるのだが……。
ハードボイルドでありながらもせつない系。基本的に、ハッピーエンドで終わる話は無く、どれを読んでも物悲しい。もっともっと書いて欲しかった。東野圭吾のエッセイ『きっと最後の御挨拶』には、倒れていない頃の藤原伊織が出てきて、しかも酔っ払っている。この頃、すでに病に蝕まれていたのかと思うとやるせない。
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