ISBN:4062142333 単行本 藤原 伊織 講談社 2007/07 ¥1,575
読み始める前に覚悟しておかねばならない事は、これが未完だという点である。飽きて放り出したのではなく、出版社が見捨てたのでも無い。「回流」という話を書いたところで藤原伊織が力尽きてしまったからである。ここからとても面白くなりそうなのに、もはや続きを読む事は出来ない。一体、どういう結末が用意されていたのかを知る術は無い。この物語の結末は、藤原伊織と共に永遠に失われてしまった。非常に残念である。
連作短編という事になっているが、全て繋がっているし、主役格も二名なので、各話は長編の一部分として捉えるほうが良いだろう。ネット上で出会った男女。男は派遣関係の会社に勤める中堅サラリーマンで、過去に父親から虐待された過去を持つ。女は長身でモデル系の若者。登録していた芸能プロダクションの顔を立てるために受けたオーディションで合格してしまい、CMに出演する様になる。その二人に付きまとう謎のストーカー男。男性の父親が遺した拳銃と弾薬。伏線が張られたままで、この物語は途切れてしまう。ちなみに、最後に収録されている「オルゴール」は別の短編なので完成している。
事実上の最終話となってしまった「回流」が発表されたのが2006年の3月で、5月17日に著者は他界している。病床にありながらも、ギリギリまで執筆を続けていた事になる。
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