ISBN:4828817387 単行本 石黒 達昌 福武書店 1994/05 ¥1,529
今回の芥川賞候補作の中の不思議な魅力を備えた作品が本になった。石狩川上流に長年繁殖したがついに絶滅したハネネズミの種の生存最後のドラマは人類滅亡のメタファーである。卓抜な発想と透明な叙情性をもつ表題作他2編。
第110回芥川賞候補作収録。
なんか、異様に題名が長い! しかし、これは冒頭の文章から取ったものであり、本当は無題らしい。題名が無いままだと、書籍にして売る時に不都合があるからね。三篇入っているのだが、「今年の夏は雨が多くて」は、小説というよりも手紙みたいになっている。
表題作は、絶滅したハネネズミに関するある疑惑について。嘘論文みたいな形式で、表や写真までついているので、何も知らないで読んだらハネネズミが実在したと騙されてしまう人がいるかもしれない。他作品でも出てくる動物なのだが、これは作者が考えた架空の生き物です。
真ん中にある「鬼ごっこ」が結構良かった。身内に末期癌が発見され、患者の身内としての立場と、医者としての立場から宙ぶらりんになり、どちらにもなり切れない男の苦悩を描く。その方面でもプロであるから、手術シーンも生々しいしリアルである。
ちなみに本書は縦書き作品と横書き作品が混じっているので、両方から読むというスタイルになっている。最近の書き手オナニー作品群と比べたら、この頃の芥川賞関連作品のほうが出来が良いかもしれない。
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