ISBN:4104629030 単行本 古処 誠二 新潮社 2007/07 ¥1,575
本当は存在しない敵の姿を、なぜ人は必死になって追い求めるのだろう。昭和二十年八月十四日、敗戦の噂がまことしやかに流れる沖縄の捕虜収容所で、血眼になって二人の人間を捜す男の姿があった。一人は自らの命の恩人、女学生の高江洲ミヨ。もう一人はミヨを死に追いやったと思われる阿賀野という男。男の執念の調査は、やがてミヨのおぼろげな消息と、阿賀野の意外な正体を明らかにしていく。
第138回直木賞候補作。
敗戦前後の沖縄。無条件降伏直前に、死にかけで転がっているところを発見され捕虜になった下士官が、命の恩人と、その恩人の命を奪った男を捜し求める。真面目な者、律儀な者から死んで行く不条理。ならば、生き永らえた者は悪人か!?
捕囚となってからは、無理難題を突きつけた上官を探し出して逆に制裁しようとする兵達。それをしたたかにコントロールしつつ、占領統治に利用しようとする米軍。本当の敵など、どこにも見当たらない。一体、何が敵なのか!? やがて、この物語の意外な事実が明らかにされる。
死んだと思っていた命の恩人が、実は生きていたというようなご都合主義など無い。運不運や善意悪意で命の長さすら変わってしまう不条理極まりないこの時代。本当にやるせない。戦争が終わった途端に上手く立ち回って略奪行為に手を染める元看護学生に、最も人類の汚さを感じた。
テーマは重いのだが、物語としてややアッサリしすぎなのが直木賞に届かない原因か!? どうでも良いけど、これを書いている時点ではamazon品切れ状態で、5,980円ものボッタクリ価格がついていた。儲けるためとはいえ、大昔の絶版小説でもないのにこの価格は嫌らしいよなぁ。
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