ISBN:4048735292 文庫 貴志 祐介 角川書店 2007/10 ¥780
日曜の昼下がり、株式上場を目前に、出社を余儀なくされた介護会社の役員たち。エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、有人のフロア。厳重なセキュリティ網を破り、自室で社長は撲殺された。凶器は。殺害方法は。すべてが不明のまま、逮捕されたのは、続き扉の向こうで仮眠をとっていた専務・久永だった。青砥純子は、弁護を担当することになった久永の無実を信じ、密室の謎を解くべく、防犯コンサルタント榎本径の許を訪れるが―。
この作者は上手いのだけど、寡作。この水準を保ったままで恩田陸くらい乱発出来たら、きっとすごい売れっ子になるだろう。もう少しペース上がらないものかね?
今回は高層階で発生した密室殺人が題材となっている。なかなか真実にたどり着けないのでハラハラする。二転三転する推理。まあ、情報がすべて開示されていないから本格には入れたくないのだが、謎解きをするタイプじゃなくて、純粋に読み進めて楽しむミステリーだと思えば、非常に水準が高い。緻密に計算されたプロットは、最後まで辿り着いた後で第一部を読み返すと、さらに味が出る。
胡散臭いコンサルタントと弁護士が推理していく第一部と、実行犯人の立場で描かれた第二部に分かれる。第二部は、「青の炎」のような後味の悪さが残ってせつない。国家は、法律の及ばない悪意から、小市民を保護してはくれないのだ。出来れば、犯人がそいつらに復讐を果たしてくれたら気分爽快になれたのに……。
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