主人公は27歳の青年。タクシーの運転手をして生計を立てている。親から捨てられた子供たちのいる施設で育ち、養子として引き取った遠い親戚は殴る、蹴るの暴力を彼に与えた。彼は「恐怖に感情が乱され続けたことで、恐怖が癖のように、血肉のようになって、彼の身体に染みついている」。彼の周囲には、いっそう暴力が横溢していく。自ら恐怖を求めてしまうかのような彼は、恐怖を克服して生きてゆけるのか。主人公の恐怖、渇望、逼迫感が今まで以上に丹念に描写された、力作。表題作に、短編「蜘蛛の声」を併録。

第133回芥川賞受賞作。

「銃」「遮光」と受賞を逃した中村文則、今作品でようやく受賞に至る。親に見捨てられて施設にいた影響か、自虐的で精神を病んだ男の話。徹底して自分を痛めつけ、破壊しようとする衝動にとらわれる男。意味も無く暴走族っぽい集団に絡んでフルボッコになり死にかけたりする。ラスト付近ではタクシー強盗に殺害されそうになるし、どうも自虐的に痛いのは好きになれない。

中村作品の中では、個人的には微妙作。これよりも、「銃」と「遮光」のほうが良かったのに……。後半に収録されている「蜘蛛の声」で描かれる狂気のほうが好きだなぁ。

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