携帯もメールもなかったあの頃、僕たちの恋は強く激しく深かった。それでも気づくことができなかった。彼女が心の底で、哀しく美しい歌をうたい続けていることを―。同じ職場で結婚秒読みの僕と由香の前に現れた、アルバイトの由布子。ラスト1ページまで突き抜ける哀しみのラブストーリー、大崎“恋愛”小説の最高峰。
やはり大崎善生は上手い。だが、どれもこれもやるせない結末で、ハッピーエンドで終わってくれない。まだ完全制覇していないのだが、登場人物が幸せになる作品ってあるの? 正直、現実世界でウンザリする事ばかりなのに、物語の中でまで憂鬱な気分に浸るのは好きじゃない。
物語の前半で、まだ現役で活躍しているセナの話が出てきたりして、その時点でもう、これは過去へ遡っているだけで、“現在”に相当する部分では悲劇として終わっているのだろうなと思った。
同じ社内で始まった三角関係で、去られる女と新しい女の、両方がおかしくなって行く。精神が破壊されていき、やがて悲劇が訪れる。自らが蒔いた種が大事になり翻弄される男。自分では懸命に頑張っている振りをしつつも、実際には全力で立ち向かっているとは思えない。鬱病になった恋人の元に毎日通い、5回も駐車違反でレッカー移動されてしまうのだが、そこまでせっぱ詰っているならば一緒に住めば良いと思うのだが。
結局、二人の人間を破壊した挙句、仕事は捨てずにドイツへ転勤。その経験を生かして転職するというしたたかさは、読んでいて全くシンクロする事が出来ない。文章も物語も上手いのだが、気分が滅入る。
コメント