留年寸前の僕が担当教授から命じられたのは、不登校の女子学生・穂瑞沙羅華をゼミに参加させるようにとの無理難題だった。天才さゆえに大学側も持て余し気味という穂瑞。だが、究極の疑問「宇宙を作ることはできるのか?」をぶつけてみたところ、なんと彼女は、ゼミに現れたのだ。僕は穂瑞と同じチームで、宇宙が作れることを立証しなければならないことになるのだが…。第三回小松左京賞受賞作。
「宇宙は“無”から生まれた」と、彼は言った。「すると人間にも作れるんですか? 無なら、そこら中にある――」
冒頭の掴みは完璧である。こういうズレたセンスは大好きである。実際ところ、無に見える部分にも何かが詰っているのだが。物質を限界まで拡大していくと、物質と物質の間に横たわる空間は無と言えるのかもしれないけど、それでも空間はあるよなぁ。本当の“無”なんて、人間の心の闇にしか……。
それはそうと、文庫版の帯が気になります。映画化!? 本当に映画になるのか? アニメ化のほうが良いんじゃないのか? 巨大な粒子加速器以外はSFっぽい物が出てこないから、国産映画でも何とかなるのかもしれないけど、ペラい映画になりそうで嫌だなぁ。
老人が感じた宇宙に関する疑問が元で、宇宙の作り方を研究する事になるゼミ生達。もっとも、天才少女と主人公以外の全員が宇宙は作れない派にまわる事になるので、凡庸大学生である主人公青年には苦難が待ち構えている。人類には作れないだろうけど、少なくとも1個は出来ているのだから、宇宙を作るためのレシピは存在するはずである。人類が拙いから知らないだけで、答えは必ず用意されている。しかし凡庸大学生に作れるとは思えない。
誹謗中傷、盗撮、マスコミの悪意ある攻撃、人為的に生み出された自らの存在意義……。いろいろあって精神が不安定になった天才少女は、シミュレーションからある答えを導き出し、粒子加速器を使って宇宙を発生させようとするのだが……。実際には、そんな簡単には作れないだろうけど、実験の成功が、今の宇宙の終りだなんて!
それにしても、解らない事が多すぎる。解らないままに、天才が見つけた解答を覚えて、とりあえず知った事にしているのが凡人であるが、それで良いと思う。全ての事象を本当に理解するまで頑張るとなると、上手く行けばエジソンみたいになれるが、そうじゃなければ単なる馬鹿で終わってしまう。
本書でも、素粒子、量子力学、電磁気力、重力、強い力、弱い力……、次々と難しい話が出てきて辛くなりそうなところ、主人公も出来が悪い理系学生という設定なので、読み手だって物理学の理論なんて判らないまま、素直に読み進めてOKです。もし天才少女のほうが主人公なら、嫌味なだけで終わっただろうな。
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