“ゴットハルトは、わたしという粘膜に炎症を起こさせた”ヨーロッパの中央に横たわる巨大な山塊ゴットハルト。暗く長いトンネルの旅を“聖人のお腹”を通り抜ける陶酔と感じる「わたし」の微妙な身体感覚を詩的メタファーを秘めた文体で描く表題作他二篇。日独両言語で創作する著者は、国・文明・性など既成の領域を軽々と越境、変幻する言葉のマジックが奔放な詩的イメージを紡ぎ出す。
表題作なのに、「ゴットハルト鉄道」が短すぎる。ゴットハルト鉄道に乗った女性の話なのだが、途中で引き返して山岳電車に乗る。雪景色の中を歩くのだが、何事も起こらないまま、面白くなる前に終わってしまった。
ページの大半は「無性卵」という話で、住んでいる家の二階しか使わないという、ちょっとおかしな物書きの女性が主人公。この女性のところに、正体不明の少女が迷い込んできて一緒に暮らし始めるのだが、この娘もどこかおかしくて、意味不明の言動をとる。物語としてはこれが一番普通に読めたが、最後がBAD ENDなのがちょっとなぁ……。
最後の「隅田川の皺男」は、二浪目に突入した男娼みたいな男と、その男を金で買う女の話なのだが、かなり不条理で意味不明系。こういう現実と妄想の境界が曖昧で訳の分からない話はあまり好きじゃない。
コメント