「言葉って、すごいなあ」。本当に強い言葉は、人のいちばん奥底にまで届く。この本は、そんな心に響く言葉たちを、詩から、歌から、俳句から集め、言葉の味わい方・楽しみ方を指南します。詩が好きな人、詩をつくる人、詩を朗読する人はとくに必読!言葉の回路全開のねじめ先生が、パワフルに過激にスリリングに語ります。

ねじめ正一の「言葉」に対する情熱と想いがヒシヒシと伝わってくる良書だった。最近、有名人に書かせた言葉や国語に関する新書が増殖して玉石混交状態だけど、これは玉のほう。

引用している詩や絵本も、優れた作品が多い。一番心に響いたのは、全国高校生詩のコンクールで2003年に大賞を取った宮崎祐子さんの「朝」。詩なんて作り手の自慰行為にしか思えなかった私が、人生において唯一感動した詩である。情景がリアルに迫ってくる。物凄い才能だ。「朝」で表現されているような暖かい日々の記憶を持たず、ただ暗闇に包まれていた地獄のような時代を思い出して全自分が泣いた! 

高校時代なんて思い出したくも無いが、その先に絶望しか待ち受けていないという事実をまだ知らないだけ、今よりはマシだった気がする。


この「朝」は素晴らしい!
マッハで漕いできた自転車の
息切れが今頃きて
四階までの長い階段を登りおえると
肺のあたりに
重さと軽い痛みを覚えた
まだ冷たい朝の空気が残る
教室へ入ると
誰も来ていない
『一番乗り』
誰もいないのに
妙に緊張して
息を整えてから
席についた
深い深い溜息
二日間私を待っていた
冷たい机に頬をつける

均一に並んだ
同じつくりの机たち
ちょうど三十九個
ああ あともうすこししたら
この似たような同じ机に
全然違う三十九人が座る
朝練をするテニス部の音
剣道部の声
黒板には
まだ金曜日の日付けと日直
月は4月で
私はまだこのクラスに慣れない
時間はじれったいくらいゆっくり進む

このまま誰も来なければいい
このまま一人でいたいのだ
私は目をつむる
この青く淋しい朝
わたしはひっそりと息をする
いっそ無機物になってしまいたい。
ここに並んだ机、壁、黒板みたいに。
喋らなくて
笑わなくて
何も感じなくて

人が入ってきて 私と彼女はお互いに少し
びっくりする
ああ
私はやっぱり無機物なんかじゃない
どうしよう、どうしようと心の中で思った
感情は揺れて
でも
内心とてもビクビクしているけど

「おはよう」

私は小さくあいさつをする

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索