なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか 記憶と時間の心理学
2010年5月9日 読書子ども時代の長く、けだるい夏はどこへいってしまったのだろう?年をとるにつれて、なぜ時間はスピードを上げ、私たちから逃げていくように思えるのだろう?老年になると、なぜ遠い昔の出来事がまるで昨日のことのように、鮮やかに蘇ってくるのだろう?既視感“デジャ・ヴュ”、臨死体験、サヴァンの驚くべき記憶力、極度のトラウマが記憶想起に与える影響など、記憶にまつわる不思議な現象を解き明かした。脳科学を超えた記憶にまつわる知の冒険。
題名から思い浮かぶような内容ではなくて、時間が加速していく現象に対する考察は全17章のうちの1章分に過ぎなかった。人間の記憶を様々な角度から論じて行くので、きっと題名からイメージすると中身が違いすぎて驚くだろう。
幼少期のある時点以前の記憶が闇に包まれている理由、匂いとリンクした記憶、過去に遡るのに逆方向ではなく順方向に思い出す理由、サヴァン症候群にみられるような絶対記憶、トラウマと記憶、既視感体験、忘却、そして走馬灯のような臨死体験まで、記憶に対する現象を様々な角度からアプローチする。
登山中に滑落したりした場合、地に叩きつけられる直前まで、恐ろしい勢いで過去の記憶が再現されるようだが、日本で走馬灯と呼ばれるこの現象は、どうやら自ら望まず事故に遭った者にしか起こらないようである。事故や戦乱から生き延びる事が出来た人を調査すると、かなりの人数がこれを体験しているのに対し、自ら自殺しようとして飛び降りたりして死ななかった者は、ほぼ体験していないという結果が……。何故そうなるのかは分からないが、自殺すると臨死体験は得られず、苦しみながら死ぬという事になる。
タイトルとなっている時間が加速していく現象は、どうやら錯覚のようである。「10歳の子供にとっての1年は一生の1/10だから長く感じ、60歳の人にとっては1/60だから短く感じる」というピエール・ジャネの仮説はどうやら正解ではない。年をとるにつれ、体内時計が実時間とズレるので、このような錯覚が生じるようである。時間の流れが速くなるのではなくて、自分のほうが遅れていくので速く感じるようなのだが、明快な答えは未だ得られていない。
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